2.破傷風菌の純粋培養や血清療法を成功に導いたヒラメキの例

7)培養液中の毒素を濃縮したい

培養液を細菌濾過器にかけて濾過しても、細菌体は取り除けても、液量はほとんど変化しない。細菌も毒素物質もともに通過させない濾過器があれば、培養液の水分だけを取り除き、毒素物質を濃縮できる。そのような「うまい道具(現在では分子ふるいと呼び、分子量の違いから物質をふるい分ける膜)」はないものかと考えた。

水分(ブドウ糖などの分子量が小さい物質を含む)は通過するが赤い色素(ヘモグロビンと呼ばれる高分子のタンパク質)は通過させない性質を羊腸の膜はもっているので、羊腸膜は「透析膜」と称され、分子量の大小をふるい分ける道具として使われる。

そこで培養液の毒素成分を羊腸膜で濃縮できればと考えた。その時に思いついたのが細菌学の分野で多用されていた「シャンベランの細菌濾過器」を大改良することであった。シャンベランの濾過器(陶土製)は、すぐに目詰まりして濾過できなくなり、毒素のようなタンパク成分は通過してしまう欠点がある。

陶土製筒の代わりに「羊腸袋」を用いることを思いついた。羊腸袋の濾過面積を大きくするために、細い羊腸を長いまま(一端はしばってある)、大きな吸引ビンのなかに入れた。羊腸袋のなかに濾過したい液体を入れ、自然に水分が羊腸膜から滴り落ちてくると、膜を通過しない巨大分子は内部にとどまるので、時間の経過とともに濃縮される。ここに「北里式タンパク濃縮器」が完成し、大動物の免疫も可能となった。

日本ではあまり知られていないが、この「北里式タンパク濃縮器」は、大変なすぐれものでヨーロッパではいま現在も盛んに使われている。自然な条件で濃縮するのでタンパクが変性しなくてよいと言われている。