2.破傷風菌の純粋培養や血清療法を成功に導いたヒラメキの例

6)免疫血清で患者を治療せよ

北里先生は、破傷風菌を純粋に培養できたとコッホ所長に報告したとき、既に発症物質(毒素)の産生と毒素を破壊する物質の存在を予見していた。次に動物は強力な破傷風菌の発症物質(毒素)になれ、その動物の血清には毒素を破壊する物質(免疫抗体)ができることをローベルト・コッホ所長に報告した。

報告を聞いていたコッホ所長は、北里に向かって即座に「免疫血清を用いて破傷風患者の治療を試みる実験」を指示した。北里先生は、免疫血清による破傷風の実験的治療へと一直線に突っ走った。その結果、人類未踏の「免疫抗体による血清療法の確立」という大発見の金字塔を打ち立てた。

ところが実際に患者を治療するには、一回の注射に約20ミリリットルの免疫血清が必要となり、マウスやモルモットなどで作った血清では量的に足りず、ウマのような大動物を毒素で免疫する必要に迫られた。マウスとウマでは身体の大きさが数万倍もちがうので、注射する破傷風菌の培養液も数万倍の量が必要となり、実際には注射ができない量になってしまう。

そこでウマのような大動物を実際に免疫するにはどうしたらよいのか、また難問が現れた。ここでもまた新しい発想がヒラメイタのである。