第86話
 正七角形の作図問題
 

 
「主な対象読者」
今回の主な対象読者は「第80話 不可能にまつわる話 5.角の三等分」を読まれた方です。しかし、「5.作図不可能性」を除いて、第80話の知識を必要とはしていません。高校生か、場合によっては中学生以上なら、挑戦してみる価値があるかも知れません。
 
「著者の実験」
アクセスログの解析から、第80話が読まれているようです。試しに、その続きを書いて、反応を調べてみたいと思います。
 
本 文 目 次
 1.はじめに
 2.複素数
 4.1の7乗根
 6.おわりに
 
著者 坂田 明治
 

 
 
第86話 正七角形の作図問題
 
1.はじめに
 今回は、正七角形作図問題です。
 
 理科好き子供の広場のアクセスログを見ていると、第80話「不可能にまつわる話」が読まれているっぽいです(なぜか第24話も読まれているみたい。こっちは、「スネルの法則 計算」、「最速降下曲線」というキーワード検索で入ってきている)。本当に読んだかどうかは、本人しか解らない永遠の謎ですが、アクセスしている時間から考えて、5章「角の三等分」まで読んでいるような感じです。一応、ログを見る限り、ボットやクローラーとは宣言されていません(そもそも、ボットやクローラーならさっとなめてどっかへ行ってしまう)。自分で読んだ時間と比べても、「やっぱり人かなー」と思えます。本当は、「角の三等分なんて読む人はあまりいないだろう」と思っていたのですが。(ページを作るときに、自分で読むか、誰かに読ませるかして、その時間を計っておくのは手です。後で、アクセスログを見て、開いただけか、開いて下までスクロールしただけか、ちゃんと読んでいるかの手がかりになりますから)
 
 そこで、角の三等分問題を読みに来る人がいると思って、その続きにあたる、「正七角形の作図問題」を書いてみることにしました。はたして、「待ってましたぁー」と喜ぶ人はいるかな。
 
 
2.複素数
 今回は複素数が必要となってきます(前回も使っていましたが)。
 
 普通の教科書に書いてある導入理由は、x 2 = −1の解がないから、無理矢理導入したというものでした(実係数の多項式を x 2+1 で割った余りで導入する方法もあります)。実数の2乗は正か0なんで、2乗して負になりっこないですからね。
 
 ここで、注意をひとつ。「方程式の解がある」「方程式が解ける」とは全く意味が違います。前者は、とにかく方程式の解があるというだけで、具体的に解く方法は何も示していません。それどころか、解く方法がなくても、解の近似値すら求められなくても「俺は知らんもんねー」という立場です。後者は実際に解を求める方法を示す必要があります(例えば解の公式)。
 
 もう少し説明をつけると、複素係数のn次方程式は、必ず複素数の解を持ちます。これは「代数学基本定理」というもので、ガウスの学位論文で示されたものです。
 
 一方、1次方程式、2次方程式は簡単に解け(解の公式)、3次方程式、4次方程式も、やがて解けました(解の公式が発見されたこと)。
 
 普通に考えると、「じゃ次は5次方程式の解の公式だ」でしょう。しかし、そうはうまくいきませんでした。「なんとか求まるはずだ」と考え求めようとしても、結局、代数的に解くあらゆる試みは全部失敗しました。後に、5次以上の代数方程式は「代数的に解けない」(代数的な解の公式は存在しない)ということが示されたのです。なお、代数的でなければ5次方程式の解の公式はあります。
 
 ということで、「解がある」「解ける」別ものです。注意しましょう。
 
 さて、複素数を導入しましょう。普通にやっても面白くないので、いつものように遠回りしていきます(好き勝手デタラメやりたい放題ともいう)。
 
 まずは平面上で三角形の見直しからはじめましょう。
 
 
 三角形の構成要素は、3個の点3本の辺三角形の面です。この構成要素を個々に見ていきます。図1にあるように、三角形の面を与えれば三角形ですので、この場合を考える必要はないでしょう。3個の点を勝手に取れば(以下、同一直線状にないとか、重なっていないとか、そういう細かなことはいちいち書きません。どうすればよいかは自分で考えましょう)、3点を線分で結ぶことによって三角形ができます。この場合も問題ありませんね。
 
 
 問題になるのは、3本の辺です。勝手な線分を3本与えても三角形にはなりません。ばらばらな線分が3本あるだけです。たとえ線分を平行移動して端点を重ねたとしても、やはり三角形にはなりません。端点を、どうつないでも無理です。更に、平行移動以外に回転や折り返しを許したとしても、状況は変わりません。たとえば、100の長さの線分1本と1の長さの線分2本とを考えてみれば、どうつないでも三角形はできません。
 
 
 では、元々三角形の辺だった線分を平行移動して端点を重ねてみましょう。今度は、三角形が4個できました。端点のつなぎ方を変えたものは、元の三角形に対して180度回転したものになっています。平行移動して重ねられる三角形を同じものとみなせば、三角形は2個です。元の三角形と180度回転したものです。
 
 これから解ることは、勝手な3本の線分を与えても、三角形ができなかったり、できても1個だけにはならないということです。都合が悪いですね。なんか別な手を考える必要がありそうです。
 
 よく考えてみると、線分を3本も与えたのが原因のようです。それでは、線分を2本だけ与えてみましょう。以下、平行移動は自由に行います。
 
 
 2本の線分の端点をつなぎ、残りの端点を線分で結べば、とりあえず三角形ができます。ただ、この場合でも三角形は4個できてしまいます。しかし、とりあえず、三角形ができたので、問題は1個に限定することです。
 
 図4をよく見てみましょう。線分の端点は2個あるので、2本の線分の端点のつなぎ方は4通りになります。その組み合わせのそれぞれに三角形ができますので、結果として4個の三角形ができます。そうすると、つなぐ端点を指定しておけば、つなぎ方が1通りに決まり、できる三角形も1個だけになるはずです。
 
 そこで線分の端点の指定方法を考えます。普通、線分ABと書いても、線分BAと書いても同じものです。あえてここで、線分ABと線分BAとを異なるものとして扱いたいため、AからBへの矢印を書き、有向線分ということにしましょう。(どうしてもちゃんとやりたいという人は、A、Bの順序対(A,B)として定義すればいいです)
 
 
 図5にあるように、有向線分の端点は、矢印の始まりの方を「始点」、矢印の終わりの方を「終点」と呼び区別します(順序対で定義した場合は、第1成分が始点、第2成分が終点)。そして、有向線分ABと書いた場合は、Aが始点、Bが終点です。
 
 
 有向線分は、平行移動して、矢印の向きまで込めて重なるものを「等しい」とみなします(順序対で定義した場合の同値関係は自分で考えてね)。これから、有向線分ABと有向線分BAは別ものになります(矢印の向きが逆だから)。
 
 
 そして、有向線分から三角形を作るときは、必ず双方の始点をつなぎ、おのおのの終点を線分で結んで作るものとします。こうすると、つなぎ方が1通りになりますので、できる三角形は1個だけになります。図7をよく見ると、三角形の合同条件を思い出すでしょう。2辺とはさむ角が等しければ合同でしたね。ここで、「あれっ」と気づいた人はエライ。今までやってきたことから、2辺とはさむ角が決まれば三角形は決まりますが、3辺が決まっても三角形は決まりません。正確には、三角形のできないことがあるということです。
 
 つまり、「三角形・・・において」という前提があれば、「対応する3辺が等しい」「対応する2辺とはさむ角が等しい」は同じになりますが、三角形という前提がなければ同じになりません。と「対応する1辺と両端の角が等しい」については自分で考えましょう。
 
 「三角形なんとかにおいて、・・・」とちゃんと前提を正しく示して説明していても、その実、この前提がなぜ必要か理解していない人がいます。慣例に従って書いており、どこにも間違いがないのだけれども、このようなこともあります。理科好き子供の広場のあっちこっちで、「何事も疑ってかかり、自分でよく考えろ」と書いてきましたが、それはこういうことだったのです。とにかく、自分でよく考えましょうね。
 
 図7に関連して、「対応する2辺とはさむ角が等しい」というのは合同条件でしたが、これを少しゆるめると相似条件になります。
 
 さっそく、三角形の相似を考えてみましょう。
 
 
 三角形ABCと三角形PQRが相似であれば、
 
 
です。逆に、上の二つの式が成り立てば、三角形ABCと三角形PQRは相似です。図8と式(1)をみれば解りますが、2辺と挟む角によって三角形が構成されて、その上で相似の条件が扱われています。
 
 
 有向線分を用いると、有向線分2本で三角形が構成されてしまい、見かけ上、はさむ角が表に出てきません。ということは、有向線分によって相似の条件を記述すれば、角が表にでてこないと期待されます。
 
 最初に、有向線分で式を記述するために、有向線分を表す記号を定めましょう。
 
 
式(2)のように、線分の記号の上に矢印を付けて表すことにします。
 
 
このとき、Aを始点、Bを終点とします。こうしておいて、形式的に、
 
 
と書きます。そして、この式の意味するところは式(1)であるとします。つまり、「有向線分の比が等しい」ということを式(1)で定義します。(注:「比が等しい」ということを定義したのであって、「比」を定義したのではありません。この手の微妙な表現の差を混同している人をよく見かけますので)
 
 「なんだ、むりやり角を表に出さないように書いただけじゃないか」といわれればその通りですが、その意見は無視して話を進めましょう。比が等しいとき、内項の積は外項の積でしたから、式(3)を形式的に積の形にして、
 
 
と書くことにします。この意味は式(3)であって、結局は式(1)を示しています。
 
 
 一応、図11から、
 
 
が成り立つので、
 
 
となって、可換(順序を入れ替えてもよいということ)になります。
 
 式(4)に戻って、有向線分ABの長さを1とします。
 
 
図12より、
 
 
なので、
 
 
これより、式(4)で、有向線分ABは長さが1で、相似の基準となっているから、書かないことにすれば、
 
 
となって、形式的に、有向線分の積を定義したようなものになります。この式の意味を考えてみましょう。実態は、式(8)なので、式(8)と元になった図12を見ながら考えます。
 
 まず、PRはPQとACの積であることから、PRはPQのAC倍となります。次に、角QPRが角BACであることから、PRはPQを角BACだけ回転したものになります。これから、有向線分PRは有向線分PQをACの長さ倍して角BACだけ回転したと考えられます。これでうまく有向線分の積を定義できそうですね。と思ったら甘い。
 
 
 図13のような場合はどうするのでしょうか。今までとは角度を計る向きが逆です。式(8)はそのまま成り立ちますが、しかし、角度については角BAC分逆回転したものになっています。それなら角度に符号をつければよさそうですね。いや待てよ。180度より大きい方の角度(三角形の角の外側の角度)を取って回転したと考えてもいいのではないでしょうか。結局のところ、どちらでもよくなります。それどころか、図12、図13とも何周かして計ってもよいことが解ります。ここは自分でよく考えてみましょう。
 
 ここまで準備的な考察をすれば、有向線分の積をどう定義すればよいかが解ります。簡単のために、平面上に点Oを取り、有向線分を平行移動して、始点をOとします。次に、Oを始点とする長さ1の有向線分OEを引き、これを基準とします。角度を計る方向は、Oを中心として反時計回りを正時計回りを負とします。
 
 
 図14を基にして、有向線分の積を定義します。
 
 
 式(10)の意味は、ORの長さは、OPとOQの長さの積で定義し、有向線分ORが有向線分OE(基準)となす角は、有向線分OPと有向線分OEのなす角に、有向線分OQと有向線分OEのなす角を加えたものです。言い換えると、OPの長さをOQの長さ倍して、有向線分OPが有向線分OEに対してなす角を、有向線分OQが有向線分OEとなす角だけ回転させたものです。
 
 これから、すぐに式(11)、式(12)が成り立つことが解ります。なお、式(11)を「交換律」、式(12)を「結合律」といいます。
 
 
 
 式(11)は有向線分OPをOQ倍して回転させても、有向線分OQをOP倍して回転させても同じになるということです。図14を見れば解るでしょう。
 
 式(12)の幾何学的意味は自分で絵を書いて考えましょう(手抜き)。式(12)から、特に計算の順序を指定する必要がなければ( )を省略してもよくなります。
 
 
 更に、定義から式(13)の成り立つことが解るでしょう。
 
 
 基準となる有向線分OEとの積は、何もしないのと同じですからね。有向線分OEのことを「乗法単位元」とか、「積の単位元」といいます。なお、交換律が成り立ちますので、片側単位元だけで十分です。以下同様に、片側だけで手抜きをします。
 
 ここで、図15、式(13)の意味を少し考えなければいけません。図14で、三角形OEPと三角形OQRが合同で、有向線分OQが有向線分OEに重なっているということです。大したことではありませんが、このように、常に式の意味を考えるようにしましょう。それがやがて自分のためになってきます。
 
 積の定義である式(10)と図14を見れば、有向線分の逆数みたいなものが求まります。
 
 
 図16のように長さの逆数をとって、逆回転させればよいだけです。これを、
 
 
と書くことにしましょう。そうすれば、
 
 
が成り立ちます(このときに、式(14)を有向線分OPの「逆元」とか「逆数」といいます)。そこで、式(16)のように表記することにしましょう。
 
 
 すると、今までのことから、有向線分の積と割り算(分数)は全く普通の数と同じように計算できることになります。
 
 分数が定義できれば比が定義できますので、
 
 
として比を導入できます。こうすると、出発点となった、式(3)が意味を持ち、それ以降の形式的な記法が正しいものになります。
 
 ここまでを振り返ると、割り算(分数、比)は相似比という幾何学的対象であり、かけ算(積)は拡大縮小と回転という幾何学的対象でした。ここから先は、出発点になった図7をもう一度よく考え直してみることから始まります。
 
 図7は有向線分2本で三角形ができることを示していました。具体的には、有向線分の終点を結ぶ線分を引けば三角形が出来るということです。ここだけ線分ではまとまりがないので(線分と有向線分が入り混じっているということ)、有向線分としてまとめることを考えましょう。
 
 とりあえず、有向線分化して図17を考えます。
 
 
 有向線分OAと有向線分OBとで三角形はできますが、このときに、線分ABを無理矢理有向線分化して、有向線分ABを考えます。さて、有向線分ABは、有向線分OAと有向線分OBからどのように作られたと考えられるでしょうか。
 
 まず、線分ABはそれぞれの終点を結べばよいので、問題は矢印の向き、つまり方向です。図17をながめると、有向線分OAの終点を始点、有向線分OBの終点を終点としています。ということは、この2本の有向線分は対等ではなく逆の性質を持っているはずです。
 
 そこでとりあえず、形式的に、
 
 
と書くことにしましょう。更に、形式的に移行して、
 
 
と書くことにします。式(19)と図17をよく見てみると、有向線分OAの終点に有向線分ABの始点をつなぎ合わせてできた三角形に対して、有向線分OBを作っていると考えられます。
 
 
 そこで、図18のように、有向線分の和を、第1項の有向線分の終点に、第2項の有向線分の始点をつなげてできた三角形に対して、第1項の始点を始点とし、第2項の終点を終点とする有向線分と定義します。
 
 
 有向線分が一般の位置にある場合を考えましょう。
 
 
この場合は、図19のように平行移動させ、終点と始点を一致させて和をつくります。
 
 
 次に、図20をよくながめてみます。
 
 
これから、式(22)が成り立つことが解ります。
 
 
式(20)と式(22)とから、
 
 
が成り立ちます。ここで、
 
 
です。これでは解りにくいので、一般の位置で考えましょう。
 
 
一般の位置で考えると、次の式(25)が成り立つことがわかります。なお、式(25)を「交換律」といいます。
 
 
 更に、次の式(26)も成り立ちますが、これば自分で絵を書いて確かめましょう(またも手抜き)。なお、式(26)を「結合律」といいます。
 
 
これから、特に計算の順序を指定する必要がなければ( )を省略してもよくなります。
 
 
 ところで、図22を見ると、式(27)が成り立ちます。
 
 
 このため、1点も有向線分と考えなければ不都合が生じます(有向線分の和が1点になるから)。それで、1点も有向線分としておきましょう。今度はこれによって考え直さねばならないことが出てきますが、その前に、式(28)が成り立ちます。
 
 
 式(28)から、1点のことを「加法単位元」とか、「和の単位元」といいます。
 
 ここで、式(27)から、有向線分BAのことを、有向線分ABの「逆元」といいます。(この場合、積のように逆数とはいいません)
 
 和の逆元ですから、式(29)のように書いてさしつかえなくなります。
 
 
 以上から、有向線分の差、または引き算を式(30)で定義できます。
 
 
 こうしても、差を考える元になった図17と矛盾しません。
 
 
 これから、有向線分の和(足し算)と差(引き算)も、幾何学的対象から出発して考えてきたものと矛盾せず、都合がよくなります。この意味をもう少し詳しく書くと、計算をしていく際に、幾何学的イメージを描き、何をしているのかが解るということです。
 
 この少し前に、1点も有向線分にすると、少し考え直さなければならないことがあると書きましたが、今度はそれを考えましょう。
 
 1点と、基準になる有向線分OEとが作る角は考えられません(図14参照)。しかしながら、1点の長さは0なので、どんな有向線分との長さの積も0です。ですから、この際、角度の方は無視して、長さが0である方に着目し、式(31)のように1点との積を定義します。参考:「第15話  ゼロは脅威の数 」
 
 
 さて、和と積が入り混じった式の計算はどうしましょうか。そういう計算もできるようにしておけば、今までの数と同様な機械的計算ができるようになります。その際、( )がやたらと付くと見づらくなるため、計算の際に、積は和に優先するとしておきます。これで、普通の数の計算と同様に( )がだいぶ減ります。
 
 和と積が入り混じった式の計算で基本となるのは式(32)です。
 
 
この式は、図24から成り立つことが解ります。ちょっと複雑ですが、順を追って有向線分を追いかけてみれば納得できるでしょう。
 
 
 一般の位置で考えると、次の式(33)の成り立つことがわかります。なお、式(33)を「分配律」といいます。
 
 
 分配律を用いて、式(34)を計算します。
 
 
より、
 
 
 交換律が成り立つことから、これは式(31)と同じものです(ただし、一般の位置になってる)。つまり、1点との積もうまく定義できているということです。
 
 以上から、有向線分は通常の数と全く同様に四則演算のできることが解りました。つまり、(たい)になっています(特に、積の交換律が成り立つので可換体です)。(「第80話 不可能にまつわる話 5.角の三等分」参照)
 
 そこで、有向線分に、今までやった四則演算を入れた体系を、「複素数」2元数ともいう)と呼ぶことにします。単なる数の集合ではなく、演算が入っていることに注目しましょう。
 
 普通は、
足し算 → 引き算 → かけ算 → 割り算
と進むのに、ここでのやり方は、
割り算(比) → かけ算 → 引き算 → 足し算
でした。幾何学的な意味を重視してやったので面白かったかも。
 
 
3.複素数の表現
 複素数は自由に四則演算ができて、今までの数と同じように計算できることは解りましたが、いちいち幾何学的にやるのは面倒です。ここでは、数値表現を行って、機械的に計算することを考えましょう。
 
 まず、前章の結果を踏まえて、平面が必要であることは解りますね。数値表現を行うので、直交座標を導入するのが自然です。
 
 
 座標の中心を慣例にしたがって原点Oと書きます。横軸は普通に数値の目盛りをとります。縦軸ですが、これも普通に数値の目盛りをとったのでは、座標を( a , b )などと書かなくてはならなくなります。それでもいいのだけれども、ここは少しひねって、縦軸には、文字を付けて、文字付きの目盛りとしてしまいましょう。この威力は後ほど解ります。
 
 付ける文字はなんでもいいのだけれども、これも慣例にしたがって i と書きます。ここで、やっぱり慣例にしたがって、横軸を「実軸」、縦軸を「虚軸(きょじく)」と呼ぶことにします。ウソの軸だなんて、よっぽど自信がなかったんだろうけど、言葉の意味は深く考えません。
 
 更に、実軸上の点 a を原点Oから a への有向線分(有向線分Oa)と同一視します。特に違和感はないでしょう。同様に、虚軸上の点 b i を原点Oから b i への有向線分(有向線分O b i)と同一視します。なお、実軸上の点 a は実数 a と同一視します。そうすることによって、複素数は実数を拡張したものと考えられます。何を拡張して、その違いが何かは、おいおい明らかになっていきます。
 
 
 原点Oから点Pへ向かう有向線分(有向線分OPのこと)を考えましょう。図26をよく見ると、有向線分Oa の終点 a に、有向線分O b i を、始点が a に重なるように平行移動して、加えたものが、有向線分OPになっています。そうすると、これは有向線分(複素数)の和ということで、式(36)のように書いてもいいでしょう。
 
 
 有向線分(複素数)の表現ができたので、以下、順次、今までやった有向線分(複素数)の演算がどう表現されていくかを見ていきます。
 
 まずは、有向線分(複素数)のです。
 
 
図27を見れば、有向線分(複素数)の和が式(37)で表現できることが解ります。
 
 
 次に、有向線分のです。
 
 
図28を見れば、有向線分(複素数)の差が式(38)で表現できることが解ります。
 
 
 式が複雑でうっとうしくなるのを避けるため、式(39)のように略記することにしましょう。
 
 
 さてここで、普通に教えられる複素数の取り扱いをながめてみましょう。ここでやってきた方法と混同しないように、順序対で書くことにします。まず、複素平面の点を複素数として、その上で、和と差の定義をそれぞれ式(40)、式(41)としていました。
 
 
 なんのへんてつもないように見えますが、点の平行移動はどう解釈するのでしょうか。どの2点も平行移動で重なるから、平行移動で重なる点を同一視するということに意味はありません。あえて和を幾何学的に解釈しようとすれば、図29のようになります。
 
 
図29のように、原点と2点が張る平行四辺形を考えて、その対角線と解釈しなくてはならないでしょう。平行移動の概念がうまく解釈できないので、図27のような取り扱いはできません。
 
 差の解釈にいたっては、更にややこしくなります。
 
 
点 ( a, b ) から原点に対して対称の位置に点を作り、その上で平行四辺形を作って対角線と解釈しなくてはなりません。これも図28のような取り扱いはできません。
 
 そもそも、点と点の和とか、点と点の差というのはなんなのでしょうか。このような問題点が出てきます(点とベクトルを対応させ、2次元ベクトル空間と同一視するという手はありますが)。同型ならなんでも同じというのは重要なことです。しかし、個々の場合の個性を重視するというのも同様に重要です。本稿でのやり方は、このように幾何学的な視点を重視し、いい加減な取り扱いになっているものを明らかにすることです。これが目的の一つです。そして、本稿の最大の目的は、もちろん「面白半分」です。
 
 話を元へ戻して、v、w、z を複素数としたときに、次の式(42)、(43)、(44)、(45)は成り立ちます。簡単な計算で確認できますので、自分で確認してみましょう(成り立つことは2章でやっていますが)。
 
 
式(42)、(43)、(44)、(45)はそれぞれ、交換律結合律単位元の存在逆元の存在です。
 
 さて、積がどう表現されていくかを見ていきましょう。
 
 
積は、線分の長さ倍と回転からなっていたので、それに合わせた表現で考えましょう。図31を見ると、式(46)の左辺で表すのが自然です。
 
 
しかし、式(46)の左辺では書くのが面倒くさくなるので、右辺のように書くことにします。
 
 では、積について考えましょう。
 
 
図32は有向線分(複素数)のを表した図です。これを基にして考えます。
 
 まず、式(47)の左辺(1段目の式)は有向線分(複素数)の積そのものです。図32から、有向線分(複素数)の積は、有向線分の長さ倍して、回転したものなので、右辺(2段目の式)のようになります。
 
 
 次に、割り算について考えましょう。
 
 
図33は有向線分(複素数)の割り算を表した図です。これを基にして考えます。
 
 まず、式(48)の左辺(1段目の式)は有向線分(複素数)の割り算そのものです。図33から、有向線分(複素数)の割り算は、有向線分の長さで割って、逆回転したものなので、右辺(2段目の式)のようになります。
 
 
 以上のことから、v、w、z を複素数としたときに、式(49)、(50)、(51)、(52)は成り立ちます。簡単な計算で確認できますので、自分で確認してみましょう(成り立つことは2章でやっていますが)。
 
 
式(49)、(50)、(51)、(52)はそれぞれ、交換律結合律単位元の存在0でない元の逆元の存在です。
 
 今度は、複素数最大の特徴である i の2乗について考えましょう。
 
 
図34をよく見ると、今までやった有向線分の回転と考えても、または、最初にやった相似の問題まで立ち返って、直角二等辺三角形の相似比から考えても、i の2乗の位置は−1になります。つまり、式(53)が成り立ちます。
 
 
式(53)は、実数の範囲では成り立ちません。実数の2乗は正か0でしたからね。しかし、複素数では、2乗して負になるものがあるということです。なお、i のことを虚数単位といいます。
 
 ここで、積や割り算のときの複素数の表記と、和や差のときの複素数の表記が少し違っています。これらの間の関係を考えましょう。
 
 
図35は2通りの表現方法で複素数を表したものです。各文字の間の関係は式(54)のようになります。
 
 
 そこで、実際に積を計算してみます。なお、計算には sin 、cos の加法定理を用います。
 
 
式(55)の一行目は、和や差のときの表現で積を書いたものです。2行目は、単に積や割り算に都合のよい形に書き換えただけのものです。3行目は、積の結果です。以下、加法定理を使って計算し、最終行が得られます。最初と最後だけ書き出すと式(56)になります。
 
 
式(56)の左辺(第1行)は、少し後で出てくる「分配律」を使ってガシガシ計算し、i の2乗が出てきたら−1に置き換えたものになっています。こういう意味でも、この計算結果は妥当なものであるといえます。
 
 割り算についても全く同様に計算できます。
 
 
これも、最初と最後だけ書き出すと式(58)のようになります。
 
 
こちらは、分母の実数化( ( c − d i ) を分母分子にかけること )とこの後すぐに出てくる、「分配律」を使ってガシガシ計算し、i の2乗が出てきたら−1に置き換えたものになっています。こういう意味でも、この計算結果は妥当なものであるといえます。
 
 さて、和と積のあいだの関係が式(59)です。ここで、v 、w 、z は複素数です。
 
 
式(59)を分配律といいます。この式は、有向線分のときに示されていますが、式(56)などを用い、ガシガシ計算しても確かめられます。念のために書いておきますが、分配律は、式(56)を示すのに用いていません。式(56)は複雑なので、忘れてしまったときは、分配律を用いてガシガシ計算して出せばよいということです。ここでやってるのは、あくまでも数値表現がうまくいっているという確認ですので、お間違いなく。
 
 前章で書いたように、複素数では、四則演算が自由におこなえます。つまりになっています(しかも、可換体)。ということで、実数と全く同じように計算できます。
 
 計算法則は実数と同じですが、複素数では2乗して−1になったり、それどころか、2乗しても実数にならないこともあるので(絵を描いて確かめましょう)、この点は実数と異なっています。その代わり、式(60)が解けます。
 
 
実数の範囲では、式(60)に解はありません。2乗すると正か0になるからです。しかし、複素数では解け、解は式(61)になります。
 
 
これも自分で絵を書いて確かめましょう。
 
 ここでは、これ以上代数方程式に入り込みませんが、複素数の範囲で、3次方程式と4次方程式は代数的に解けます(べき乗根を使った解の公式があるということ)。更に、代数学基本定理が成り立ちます。この辺は2章の最初の辺りに書いてありましたね。
 
 他にも実数との違いがあります。その前に、よく複素数に大小関係は入らないと思い込んでいる人がいますが、これは正しくありません。どのような集合にも大小関係は入れられます(整列可能定理)。
 
 例えば、式(62)のようにすれば大小関係が入ります。
 
 
 そもそも、大小関係というのは、式(63)が成り立つことです。
 
 
式(62)が大小関係になっていることは自分で確かめてみましょう。
 
 それで、複素数で大小関係が入らないというのは、大小関係と、四則演算がうまく結び付けられていないということです。実数の大小関係を思い出しましょう。正の数をかけても不等号の向きが変わらないなどの性質があったでしょう。
 
 複素数では、実数のように大小関係が四則演算とうまく結びついていない例が式(64)です。
 
 
このように、都合の悪いことが起こるので、複素数では大小関係を考えません。
 
 ここで、平方根号に関する注意をひとつ(−1 の平方根の意味は自分で考えて)。式(65)のようなことをやって喜ぶ人がいます。
 
 
「おっ、−1=1なのか」と感激する人はあまりいないでしょう。「なんか変だな」と思いますが。では、どこが悪いのでしょうか。
 
 式変形を順番に見ていくと、式(66)を使っているところが一番怪しく思えます。
 
 
この式は無条件には成り立ちません。教科書か何かをよく調べてみましょう。a が0以上、b が正のときしか証明されていませんよ。ということは、成り立っているかどうか不明なもの(この場合成り立ってないけど)を勝手に使って、間違った結論を出しているということです。
 
 この章の中ごろで、「点の平行移動はどう解釈するのでしょうか」と書きましたが、それは何も考えずに「こんな感じ」なんてやると、式(65)のような間違いを犯す危険性があるからでした。こういうこともあるので注意しましょう。
 
 
4.1の7乗根
  この章では正七角形の作図問題の準備として、1の7乗根について考えます。
 
 1の7乗根というのは、7乗して1になる複素数です。したがって、式(67)の解になります。
 
 
あるいは、1を移行して、式(68)の解といっても同じです。
 
 
 式(67)と式(68)のどちらを使うかは、目的によります。ここでは、式(67)の方を使います。まず、実数の範囲では、式(67)の解は1だけです。そして、式(67)の解となる複素数(有向線分)は、長さが1です。これは、1より大きければ、その長さの7乗は当然1より大きいし、1より小さければ、その長さの7乗は当然1より小さくなって、いずれも解にならないからです。
 
 
そうすると、始点を原点に取って図示すると、単位円(原点を中心、半径1の円)の円周上に解が乗っています。解を7乗するということは、図36のように角度を7倍することですから、式(69)のようになります。ここで、7倍すると、原点の周りを何回か回ることもあるので、2πの整数倍になります。
 
 
三角関数で2πの整数倍は、関数値に影響を与えませんので無視して、この式を解くと、式(70)のようになります。
 
 
 式(70)から、1の7乗根は、式(71)のように7個求まります。
 
 
これを図示すると、図37のようになります。
 
 
この解を順番に線分で結ぶと、各辺に対応する中心角は全て 2π/7 なので正七角形となります。
 
 えっ、式(71)の解じゃ「よくわかんない」だって。三角関数表示の解じゃ、なんか解った気がしないという人もいるかも知れません。そういう人は式(68)を解きましょう。
 
 まず、因数分解して式(72)のようにします。
 
 
第1の因数はどうってことありませんから、第2の因数が問題です。ということで、式(73)を考えましょう。
 
 
 ここでちょっと式(74)のように式変形をします。
 
 
更に、式(75)のように置くと式(76)になります。
 
 
 式(76)は3次方程式なので、代数的に解けます。つまり、w は求まります。そうすれば、式(75)から z が求まります。どうしても代数的な解が欲しいという人は、頑張って解きましょう。
 
 
5.作図不可能性
 いよいよ正七角形の作図問題を考えるときがきました。やり方は、「第80話 不可能にまつわる話 5.角の三等分」と全く同じです。必要な概念や、記号等はそこに書いてあるものを使用しますので、あらかじめ読んでおきましょう。
 
 まず、作図問題と言っているのは、定規とコンパスで作図できるかどうかという問題です。したがって、正七角形の作図問題とは、定規とコンパスで正七角形を作図できるかどうかということです。図37で見たように、1の7乗根が作図できるかどうかという問題になります(ただし、解のうち1は除く)。
 
 ということで、式(77)に対応する式(78)の作図を考えましょう。
 
 
 図36を参考にして、式(78)をよく見てみると、z が作図できることと、cos θ が作図できることは同じです( cos θ の位置から垂線を立てることと、単位円との交点は作図できるから、これによって i sin θ も作図できる)。
 
 更に、式(79)から、w が作図できることと同じです。これから、w が作図できなければ、cos θ も作図できず( z も作図できない)、結果として、正七角形の作図はできないことになります。
 
 
 それで、w が作図できないことを示せば完了です。ここに至って、前回(「第80話 不可能にまつわる話 5.角の三等分」)で手抜きした定理が必要になりました。今度は、一般の場合についてちゃんとやりましょう。
 
 式(80)を整数係数の3次方程式とします。
 
 
一般的な定理の形で書けば、「整数係数の3次方程式は、有理数解を持たなければ、作図可能な解を持たない」ということです。
 
 式(81)は、今回使うのでやむなく書きますが、詳しくは「第80話 不可能にまつわる話 5.角の三等分」に書いてあるので、そちらを参考にしてください。
 
 
 もし、式(80)が有理数解を持たないにもかかわらず、作図可能な解 x を持ったとして、x を始めて含む拡大体をF k とします。つまり、式(82)となる最小の k を取ります。
 
 
そして、式(82)を式(80)へ代入して整理します(この計算合ってるかなー)。
 
 
これから、式(84)が出てきます(第2式が 0 から、第1式が 0 )。
 
 
もし、そうでないと、式(85)のようになって、k の取り方に反します。
 
 
 今度は、式(86)のように y を置きます。
 
 
すると、式(80)の左辺へ代入して、式(87)のようになりますから、y も式(80)の解です。
 
 
 また、式(82)の仮定から、式(88)が出てきます。
 
 
 式(80)の残り一つの解をα とすると、解と係数の関係から式(89)が成り立ちます。
 
 
 これより、α を求めて式(90)のようになります。
 
 
これは k の取り方に反していますので、結局、作図可能な解を持つということは誤りになります。
 
 あとは、式(76)が有理数の解を持たないことさえ示せば、正七角形は作図不可能になります。
 
 今度も式(76)が有理数の解を持ったとして、式(91)のように置きます。
 
 
式(91)を式(76)へ代入して整理すると式(92)になります。
 
 
式(92)から、有理数の解を持たないことが解ります(詳細は自分で考えましょう)。
 
 以上から、正七角形は定規とコンパスで作図できないということが解りました。
 
 
6.おわりに
 今回はやたらと長くなってしまいました。しかも、実際には、後半の正七角形の作図問題よりも、前半の複素数が中心の話です。はたして、読みに来られていた方が満足するような話かどうかも解りません。それ以前に、読みに来られる方が、本当にいるかどうかも解らない状況です。
 
 もっとも、読まれなくたって別に大した問題ではありません。途中でも書いたように、「面白半分」で書いていたものですから。
 
 そういう意味では、今回の原稿は一番動機が不純です。アクセスログを見て、「書いてみるか」となっていますから。いつもなら、「今回は、これこれのネタでいこう。面白そうだから」とネタを考えてから書いています。つまり、「面白全部」がいつもの執筆動機ですが、今回に限って「面白半分」でした。
 
 いや、よく考えたら、頼まれて書いたのもありましたっけ。まあ、いいや。いつも、「好き勝手デタラメやりたい放題」ということで書いていますので、中途半端な書き方や、肝心なことが書いてないといった批判をしても意味がありませんよ。啓発なんて目的ではありませんから。
 
 そもそも、自分が面白いと思わないものを書いても、誰が面白いと思うのでしょうか。さて、今回のような動機に対して、みなさんはどうお考えでしょうか。
 
 
 
平成24年7月7日
著作者 坂田 明治(あきはる)
 

Copyright (C) 2011-2024 by Rikazukikodomonohiroba All Rights Reserved.