2.破傷風菌の純粋培養や血清療法を成功に導いたヒラメキの例

1)研究課題の選択

ローベルト・コッホ所長とならび称されるゲッチンゲン大学のフリューゲ教授は、破傷風菌は雑菌と混在する形でないと増殖させることはできず、これを共生培養と言うと発表していた。

フリューゲ教授の考えに疑問を抱いた北里先生は、コッホ研究所での抄読会で「フリューゲ教授の共生培養説」は間違いであると思うとの考えを発表した。居並ぶコッホの高弟たちは、冷たい目で北里を見下していたが、一人コッホ所長は「自信をもってそのように思うなら、考えてないで実験で証明したら良い」と北里を励ましたのである。

私個人の考えでは、北里先生のフリューゲ教授の共生説は間違いであるとの大胆な発言は、コッホ所長および研究所の先輩たちへのかなり作為的な挑発行為であって、その目的は「新しい研究課題を自ら選択でき、自らの考えで研究できる自由を獲得したい」ことであったように思う。結果的には、その機会を公式に獲得できたのである。

この抄読会より二ヶ月後に、北里先生は、世界の誰にもできなかった破傷風菌の純粋な培養に成功した旨をコッホ所長に報告した。このとき世界の大細菌学者コッホは、北里先生の非凡な才能に驚き、能力の素晴らしさを認識したのである。(興味のある方は、北里柴三郎博士の秘話に掲載してある「セリフのないドラマ 破傷風菌の培養成功の陰で忘れられた大発見」を参照)。