2.破傷風菌の純粋培養や血清療法を成功に導いたヒラメキの例

4)破傷風菌はどこにいく

亀の甲シャーレを用いて培養した破傷風菌を注射すると、その培養菌を接種された実験動物は、発症して死ぬ。その動物実験であらわれる破傷風の症状は、注射した部位の近くから出現しはじめ、段々と全身へと広がった。下体部に接種すれば常に後ろ足に強直と痙攣があらわれ、その後になって頚部の筋肉が侵される。これは明らかに神経が侵されていることを示すものである。
リボリュウス管と亀の甲シャーレ
図1はリボリュウス管 Zeitschrift f Hygine
1:115-177, 1886の126頁に掲載されている。

図2は亀の甲シャーレ Zeitschrift f Hygine
7:225-234, 1889の226頁に掲載されている。
右の写真の「亀の子は亀の甲」のミスです。
亀の甲シャーレ
亀の甲シャーレの複製品
左側の口から寒天培地を注ぎ滅菌して平板を作る。
左の口から水素ガスを注入し、右側の細い管から排気して、嫌気性にする。
キップの装置と亀の甲シャーレ

キップの装置と亀の甲シャーレ
亀の甲シャーレは、ゴム管でつなぐとなん個でも連結させることができる特徴がある。

ところが解剖してみると不思議なことに脊髄、神経、脾臓、筋肉などに破傷風菌およびその芽胞は見当たらない。神経などの材料を動物に接種しても破傷風を起こさない。これはなぜだろう。

この奇妙な現象の意味を北里先生は考えた。そこでまた新しいヒラメキが頭をよぎった。もしかすると破傷風の症状は、細菌によるのでなく謎の物質により誘導されるのではと考えた。そこで破傷風菌だけを細菌濾過を通して除いた培養液を動物に注射した。その結果は、北里先生の予測通り、破傷風の症状が現れ、その動物は死んだ。破傷風菌を培養した液には、破傷風菌とは全く別物の症状を誘導する物質が作られることを発見した。この発症物質は、いま現在は毒素と呼ばれるタンパク質である。