はじめに

  一世紀前の医学界で実際にあった「暁の脚気菌」にまつわる話で、日本を代表する医者達が「海軍と陸軍」、「ドイツ医学とイギリス医学」に分かれて繰り広げた世にも不思議なドラマです。これは「面子と強情な無責任さ」が招いた歴史的な悲劇です。

脚気という病気
  主に日本、中国や東南アジアの米食の国々にみられた特殊な病気で、特に日本国内では江戸時代から明治時代にかけて、将軍や天皇から一般庶民に至るたくさんの犠牲者がでました。原因不明の足のムクミから始まり、シビレ、倦怠感、知覚異常、重症時には心臓発作で亡くなってしまう恐ろしい病気で、原因も判らず確たる治療法もなく多くの人々を悩ませました。参勤交代で江戸屋敷で生活すると脚気になり田舎に帰ると治ってしまう江戸の奇病とも恐れられていました。特に日露戦争では日本陸軍の兵士25万人が脚気にかかったと言われています。現在では、動植物性のタンパク質の摂取が少なく炭水化物を多く摂っている人がビタミンB1の不足から脚気が起こることが解明されています。