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430. 微生物の音色−2. 11-7-2005.
 
ある意味では下等な細菌にも驚くような個性的な機能が段々と見つかってきています。単細胞の細菌にもオスとメスが存在することはかなり前に見つけせられています。このような個性を音色と称し、微生物の音色のパートツーを記します。
 
人間の血液型を認識する細菌がいる
腸管内の有用細菌の働きには、「腸管の微生物よる感染の予防、便秘の予防や改善、コレステロール代謝の改善、免疫を強める賦活作用、アレルギー反応を低減させる作用、発ガンを抑制する作用」などが上げられています。これらの機能は、乳酸菌を摂取することによってヒトの腸管内に生息する正常微生物叢(ノーマルフローラ)が改善され、その結果腸管内での腐敗物質の産生が低下することによって発現されると考えられています。これらの効果を継続的に発現させるには、乳酸菌の腸管内定着を高めて、乳酸菌を腸管内で長期間にわたり維持する必要があります。
 
ところが生憎と腸管表面は、粘液性の糖タンパク(ムチン)で覆われていて、外来性の病原微生物の侵入や定着を阻害する物理的なバリアーとなっています。さらに粘液層には色々な機能があり、例えば、細菌の細胞膜の構造を破壊する酵素リゾチーム、細菌の鉄代謝を阻害するラクトフェリン、過酸化水素を分解するペルオキシダーゼなど抗菌作用をもつ多くの物質が存在します。
 
ABO型血液型は、赤血球表面に突き出している糖鎖の違いにより、A型とかB型とかに分類されるのです。このABO型血液型を決定する抗原は、赤血球の表面のみならず、胃や腸などの表面にある粘液性の糖タンパクにも認められています。この腸管の粘液性糖タンパクの糖鎖であるABO型血液型の抗原を見分けて結合する乳酸菌が発見されました(Biosci. Biotech. Biochem. 68:1004, 2004)。たとえばA血液型乳酸菌は、A型の血液型抗原に対して強く反応することにより、病原性細菌の侵入を防ぎながら、乳酸菌の多様な生理活性が発現されると考えられています。血液型がA型の人はカゼになりやすいと言われる俗説の反対のことが、このA血液型乳酸菌によりなされているようです。
 
細菌同士の情報交換
人と人、細胞と細胞が情報交換をしているように、細菌と細菌も情報の交換を行っているようです。人と人の情報交換は言葉、表情や行動で、細胞同士の情報交換はホルモンや神経伝達物質などがあります。細菌と細菌の情報交換は、細菌が情報伝達物質(誘導因子)を菌体外に分泌して、他の個体との情報の交換を行っているようです。この情報伝達は、ある一定以上に菌体の濃度が高まると細菌が集合したことを細菌自身が感知する菌体密度依存的な調節機構を指しています。この機構は、難しいのですが「クオラムセンシング(Quorum Sensing)」と呼ばれます。
クオラムセンシングの存在は1960年代に発見されましたが、その機構については長い間不明でありました。これまでに30種類以上の細菌において、クオラムセンシングの存在が報告されるようになりました。クオラムセンシングは、菌体濃度が高まることで自分自身が分泌する誘導物質がある濃度以上に達すると遺伝子発現の制御が起こると考えられています。グラム陰性細菌で発見された代表的な誘導物質は、アシルホモセリンラクトン(acyl homoserin-lacton)であり、グラム陽性菌の誘導物質はペプチドで、放線菌類はA−ファクターと呼ばれる低分子化合物であるようです。
ある種の誘導物質は、バイオフィルムの形成、菌体外毒素の生産、ヒト細胞での炎症や免疫にも関与し、マクロフアージのアポトーシス(プログラムされた死)の誘導などにかんよすることが観察されています。細菌の情報伝達機構クオラムセンシングを人為的にコントロールすることができるようになると、これまでの抗菌治療薬とは異なる新しい感染症治療の手段となる可能性に期待がもたれます。またこれまでの抗菌薬のなかにも抗菌作用とは別にクオラムセンシングのコントロール作用を持つものが存在するようです。
 
 
増殖力の弱い細菌または増殖の遅い細菌などが現実に存在し、それらの細菌の増殖力を強めたいと栄養分をいくら高めても、増殖力の弱い細菌の増殖力を高めることは普段出来にくいのです。例えば、ライ菌は結核菌などに類似の細菌なのですが、この細菌を生体外で増殖させることは今現在も困難であります。これらの細菌類は、もしかすると私の勝手な推測ですが、クオラムセンシング機構が異常に発達しているのかもしれません。科学の発展は素人でも面白いと思われる予想外な事実を教えてくれることが多々あります。クオラムセンシングの詳細な事柄がもう少し判ってくることを期待したいものです。

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