第48話
 スタイナーの問題 〜鏡の国の光子さん道路工事編〜
 

 
「主な対象読者」
 対象者は中学生以上です。
 知識の積み重ねが重要である事を意識させるために、あえて以前に書いた原稿の結果を使っています。
なにがしかの効果があればと願っています。
 
本 文 目 次
 
 
著者 坂田 明治
 

 
 
第48話 スタイナーの問題 〜鏡の国の光子さん道路工事編〜
 
1.ちょっとだけ化学
 最近といってもかなり前からですが、書店での理工学書の売り場面積はかなり狭くなっています。しかも、「最近の理工学書は、手にとって読むと書いてある内容が解る」という話をよく聞きます。これ、「頭が良くなったわけでもないのに解るようになった」ということなので、決していい話ではありません。むしろ、レベルが下がってきていることを憂慮(ゆうりょ)しなくてならないでしょう。
 
 そこでどうしようか考えました。全部が全部書いて説明してしまうのではなく、ある程度のことを書いて、あとは本人が自分で考えるなり、調べるなりするようにもって行った方がよいと思います。もっとも、以前から、「あとは自分でやれ」という感じの、かなり不親切な書き方をしていましたが。
 
 さて、本稿ではスタイナーの問題を扱います。スタイナーの問題というのは、村が三つ(みっつ)あるときに、その三つの村を結ぶ道路の全長が最小になるものを見つけ出す問題です。
 
 
 まあ、道路工事が大好きなどっかの国では、確実に図2のような道路網を作ることでしょう。これは全長が最小にならないので、スタイナーの問題の答えにはなっていません。(この説明は後でやります)
 
 
 ここで、道路工事といえばアスファルトです。道路工事でアスファルトを使っているのを見たことのない人はいないと思います。アスファルトってなんだか知っていますか。(再三出てきますが、あくまでも自分で考えたり調べたりすることが基本です。他人に頼ってばかりいてはいけません)
 
 この辺からちょっとだけ化学の話をします。そもそも、理科好き子供の広場は化学の話があまり出てきません。そこでというわけでもありませんが、科学の話をちょっとだけしてみます。(ただの話なので、化学式ナシです)
 
 まず、アスファルトというのは、原油から揮発成分をとった蒸留残さです。一応、天然のものでありますが、主成分は複雑な炭化水素で、真っ黒でドロドロしたものです。これに手を加えて、ストレートアスファルトというものにします。ストレートアスファルトは伸度や粘着力がすぐれているために道路舗装に使われています。
 
 こう書くと、わざわざ道路工事用に作っているかのように見えますが、原油から揮発成分をとった蒸留残さということを見落としてはいけません。要するに、残りカスなので、どっかに捨てるなどして処分しなければなりません。しかし、原油流出事故を見るまでもなく、海に捨てるとどうなるかは想像がつきますね。誰か頭のいい人が、海に捨てられなければ陸に捨てるということを考えたのでしょう。このつながりから、原油の輸入が続く限り、道路工事もまた続くということが解ります。ただし、もっと別な処分方法が発見されれば話は変ってきますが。
 
 化学では、「物質保存の法則」というものがよく出てきます。これは、物質を作っている元素は、発生したり消滅したりしないということです。我々の世界は100種類ちょっとの元素で構成されています。これらが、結合して、さまざまな物質を構成しています。物質が不滅なら、最終処分というよりも、物質循環系に乗せる必要が見えてきます。昨今の色々な事件を見ていると、どうも物質保存の法則を知らないのではないかと思われる節がありますね。
 
 人間はあまり頭のいい動物ではありません。同じような間違いを何度も繰り返します。一方で、キチンと対策を立て、同じ間違いをしないように努める人もいます。人それぞれということでしょうか。
 
 記憶が薄れてきてしまったのであまり当てになりませんが、人間が最初に大量に製造した人造有害物質の話を書いておきます。こういうことは、是非自分で調べて裏付けをとりましょう。
 
 産業革命の頃だったと思いますが、イギリスで、製鉄と造船のため森林資源が枯渇してきました。そのため、木材以外のものからということで、石炭を使って製鉄を行うようになりました。
 
しかし、ここで問題が発生しました。石炭は、硫黄分やリン分が多いため、もろい鉄になってしまいます。この対策として、石炭から余計な成分を除去してコークスを作り、それを用いて製鉄をするようになりました。
 
 ここで、また困った問題が発生しました。石炭からコークスを生成すると、今度は、臭いガス、ガス液、コールタールが副生されてしまいます。やがて、臭いガスはガス灯として使われるようになりましたが、ガスパイプがナフタリンなどで詰まってしまうという問題が発生します。
 
 結局、臭いガスも精製して使うようになりましたが、大量に発生するナフタリン、ガス液、コールタールなどの副製品は用途もあまりなく、無処理のままテームズ川へ捨ててしまいました。このため、テームズ川は全滅し、真っ黒で悪臭を放っていました。後に、これら汚染物質の処理が始まります。これについては自分で調べてみてください。
 
 このような汚染があったという事実を経験してもなお、余計なものを川へ流してしまい、後に大問題となったという事件は後を断ちません。なぜ過去の教訓(きょうくん)を生かせないのでしょうか。よっぽど頭が悪いとしか思えません。
 
 
2.実験してみよう
 まずは色々な絵を書いて実験です。
 
 
 先に、図2では答えになっていないと書きましたが、これは図3を見れば解ります。図3は、村Aと村Cとを直接結ぶ道路を消しています。村Aから村Cへ行くには、村Bを経由して行けばよいので、村Aと村Cとを直接結ぶ道路は不要です。これで、村Aと村Cとを結ぶ道路の分だけ道路の全長が短くなります。
 
 
 三つの村が直線上にある場合は簡単です。図4のように直線で結んだ道路を作ればスタイナーの問題の答えになっています。
 
 ここで、道路は直線状の場合に一番距離が短くなるという事を頭に入れておきましょう。従って、曲線ではなく、折れ線状になると予想が立ちます。
 
 
 図5は、折れ線の折れる位置がどうなるかを書いたものです。図5の赤いでっぱり線より、青い線に修正した方が短くなっていることが解ります。
 
 これから何が解ったかというと、図1のように、道路が一点に集まっている方が短くなるということです。
 
 
 これで、スタイナーの問題の答えになる候補が解りましたので、定規で長さを計って調べられますね。実際に作図して調べてみましょう。
 
 
3.円と点の最短距離
 今度は、点と円の距離が最小になる場合を考えます。ここで、スタイナーの問題を考えているのに、なんで点と円の距離の話が出てきたのか疑問を持つようにしましょう。突如、話が変ったときは、後で使う準備をしていると考えて、どう話が展開して行くかを予想する習慣をつけましょう。
 
 
 図6のような場合を考えます。ここで、円で区切られた領域の内、中心がある方を内部、中心がない方を外部と呼びます。要するに、中心Oは内部の点、点Aは外部の点です。そして、点Pは円と直線OAが交わった点です。
 
 この時に、点Aから円までの距離が一番短くなるのは点Pです。これを示すやり方は色々ありますので、自分で考えてみましょう。
 
 
 今度は、点Aを中心として、APを半径とする円を書きます。すると、図7にあるようにこの円は元の円と接しています。
 
 
 もし、接していないとすると、図8のように、二つ(ふたつ)の円は交わります(点Pは点Qか点Rのどちらかになります)。すると、中心がOの円の一部は、中心がAの円の内部に入ります。中心と、円の内部の点を結ぶと、これは半径より短いので、点Pが点Aから中心をOとする円までの最短距離を与える点でないことになります(点Pは点Qか点Rのどちらかですから)。点Pは最短距離を与える点ですからおかしなことになります。つまり、接していないとすると、最短距離を与えなくなってしまい、「最短距離だ」ということと矛盾(むじゅん。つじつまが合わないこと)してしまいます。
 
 ここでなにが解ったかを考えます。中心Oの円に対し、点Aを中心として、元の円と接する円を描けば、その接点が点Aから円までの最短距離を与える点になるということです。
 
 
 次に、図9にあるように、二点が円の外部にあるときに、点Aから円を経由して点Bに行く経路の内、距離が最小になるものを考えましょう。「鏡の国の光子さん その一」では、円ではなく直線でこの問題を考えていました。直線の場合は簡単ですが、円になると一気に難しくなったような気がしますね。
 
 さて、どこから手をつけましょうか。この問題を見て頭が白紙状態になってしまう人も多いかと思います。むろん、一から考えることは重要です。しかし、わざわざ苦労して、ここまでやってきたことはなんだったのでしょうか。と考えて、今までやってきたことが何らかのヒントになっていると考えてみることも重要です。これは、思考訓練の一貫として、手筋を学ぶという立場です。いずれは、どうすればいいか自分で筋道を立てて考えていけるようになりたいものです。
 
 いままでやったことから、円と円が接するということが重要な意味を持っていました。それなら同じような考えでやってみてはどうでしょうか。ただ、この場合、円の外部に二点があるので、円ではうまくいきません。円と似たような図形で、二点が関係するものはなんでしょうか。よく考えてみましょう。
 
 まず、だ円がその候補ですね。もし、失敗したらまた考え直せばいいだけです。失敗を恐れずに進みましょう。
 
 
 それでは、だ円の性質がどんなものであったかが問題となります。これについては「鏡の国の光子さん その二」を見てください。だ円というのは二つの焦点からの距離の和が一定(この一定の値をkとしましょう)の図形でした。ここでも、焦点のある方を内部、ない方を外部と呼びます。
 
 図10を見てだ円の性質を式で書くと、Pはだ円上の点、Qは内部の点、Rは外部の点ですから、
 
AP+BP=k  ・・・・・・・・・・・  (1)
AQ+BQ<k  ・・・・・・・・・・・ (2)
AR+BR>k  ・・・・・・・・・・・  (3)
 
となります。
 
 そこで、円は、だ円の外部にありますから、焦点から、円周上の一点を経由してもう一方の焦点へ行く距離は、k以上になります。丁度、だ円と円の接点上の点Pのときに距離がkとなりますので、このときが最小です。これで、点Aから円を経由して点Bへ行く経路の内、距離が最小になる経路が解りました。
 
 ついでに、だ円を大きくして、円を内部に含むようにすれば、点Aから円を経由して点Bへ行く経路の内、距離が最大になる経路が解ります。
 
 
 図11を見ながらもう少し考えてみましょう。接点Pで円の接線を引くと、入射角=反射角(「鏡の国の光子さん その一」参照)という性質と、円の接線の性質から、
 
角OPA=角OPB  ・・・・・・・・・・・ (4)
 
となります。後の話で必要なのがこの性質です。
 
 
4.スタイナーの問題
 
 ここからスタイナーの問題を解くのですが、色々例外が出てきて場合分けが必要となります。
 
 図4みたいな場合があるので、必ずしも図1のような場合になるとは限りません。
 
 
 そこで、まずは図1のようになる場合から考えて行きます。どういうことかというと、三つの村から出ている道路の交わっている点が、どの村にも一致していない場合に、全長が最小になるということです。図4は三つの村から出ている道路がBで交わっています。もっとも、村Bからは出ていませんが。
 
 
 交差点Pを通る道路網の全長が最小になったとして、村Aを中心として、APを半径とする円を描きましょう。図で見ると、村Aと村Bは円の外になっています。いつもこうなるのかな。
 
 
 もし、村Aか村Bのどちらか(両方でもいい)が円の内部に入ったとしましょう。どっちでもおなじなので、図13のように、村Cが入ったとします。するとACは半径より小さいので、AC<APです。
 
 従って、AP+CP>AC+CPとなります。
 
 これから、AP+BP+CP>AC+BP+CPとなってしまって距離が最小にはなりません。しかもBP+CP>BCですから、AC+BP+CP>AC+BCとなってしまい、「三つの村から出ている道路の交わっている点が、どの村にも一致していないときに最小になる」という除外項目に反してしまいます。
 
 ということで、村Bと村Cは円の外になっています。
 
 ここで、AP+BP+CPは最小として、村Aを中心として交差点Pを通る円を描くと、BP+CPは円を経由して行く最小の距離になっています。これは、AP+BP+CPが最小で、APを固定しているから、BP+CPが最小にならざるを得ないからです。
 
 すると、角APB=角APCとなります。
 
同様にして、村Bを中心として交差点Pを通る円を描けば、角BPC=角BPAとなります。
 
 まとめると、
 
角APB=角BPC=角CPA ・・・・・・・・・・・ (5)
 
となります。もちろん、
 
角APB+角BPC+角CPA=360度 ・・・ (6)
 
ですから、(5)(6)を解いて、
 
角APB=角BPC=角CPA=120度 ・・・ (7)
 
です。これで交差点Pの位置は決まり、スタイナーの問題は解けました。
 
 
 解けたといっても、これではあまりよく解りませんね。もっとよく調べてみる必要があります。理想的には経路、この場合は交差点の位置が作図できることです。
 
 その前に、例外的な場合を解決しておきます。村A、B、Cが直線上にある場合はもちろん例外的な場合です。交差点PはAかBかCのいずれかと一致します。また、三角形ABCのどれかの角が120度以上の場合も例外となります。ここでは、角ABCが120度以上としましょう。
 
 
 この場合、三角形ABC内のどんな点Pを取っても(7)は成り立ちません。図15のようにAPを延長してBCと交わった点をQとするとすぐに解ります。
 
角AQC=角ABQ+角BAQなので、角AQC>角ABQ
角APC=角AQC+角QCPなので、角APC>角AQC
これから、角APC>角ABQ=角ABC>120度
となって、三角形ABC内の点で(7)を満たす点はありません。
 
 同様なやり方ですぐに解りますが、三角形ABC外の点でも(7)を満たす点はありませんから、どこに点を取っても(7)を満たすようにはできません。
 
 (7)を満たすようにはできないということから、交差点PはA、B、Cのどれかに一致します。今の場合、村Bに一致して、AB+BCが最短距離になります。(角Bが鈍角だから、ACが一番長いということを使えばすぐに解ります)
 
 では、図14の交差点の位置を作図してみましょう。
 
 
 まず、図16のようにABを一辺とする正三角形を作図します。これはコンパスでAを中心とする円とBを中心とする円を描いて、その交点をとればいいので簡単です。二箇所できますが、図16にあるように正三角形を作ります。ごちゃごちゃするので解りやすいほうを取っています。
 
 次に正三角形の外心を求めます。これは、2辺の垂直二等分線を引いて交わった点ですから簡単に作図できるでしょう。垂直二等分線の引き方は知っていますよね。
 
 すると角AOB(優弧)(ゆうこ。長い方ということ)は240度です。円周角は中心角の半分になりますから、点Pが弧AB(劣弧)(れっこ。短い方ということ)上にある限り120度になります。
 
 今度は、辺BCについて同じことをやります。そして、2円が交わった点をPとします。図がごちゃごちゃするので、図16には書き込んでいません。
 
 これで、角APB=120度、角BPC=120度となりますから、当然、角CPA=120度となります。((6)から出ます)
 
 以上で作図が終わり、スタイナーの問題の答えとなる経路が作図できました。例外的な場合は、各村が一直線上にあるか、あるいは、各村を結ぶ三角形のどれかの角が120度以上になる場合ですが、これは単純に村を直線で結んでいけばいいので簡単です。
 
 本稿で見たように、過去の知識の積み重ねは重要です。過去の知識や教訓をおろそかにせず活用し、自分の思考訓練の糧(かて)とするように心がけたいものです。
 
平成20年5月24日
著作者 坂田 明治(あきはる)
 
 

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