第37話
 光や音の話
 

 
「主な対象読者」
 対象者は中学生以上です。
内容は光と音の話です。物理的な側面と人間の感覚の両面から考察しています。少し欲張った内容になっています。以外と知られているようで知られていない話です。
 
 
 
 
本 文 目 次
 2.音の方向
 
 
著作 坂田 明治
 

 
 
第37話 光や音の話
 
1.波とドップラー効果
 
 「理科好き子供の広場」がヤフーきっずに登録されました。審査が厳しいだろうに、よく登録されたなぁという思いです。そこで紹介文をよく見ると、「光や音、バイオ、微生物などの理科や、言語、数学に関するコラム」とあります。ここは、一発、ヤフーきっず登録記念原稿を書いてみようと思います。それで、頭に「光や音」とあるので、それをそっくり頂戴して、光と音に関する原稿としてみました。一見、不純な動機に見えますが、やっぱり不純だなー。
 
 まあ、そうはいっても、話のネタが湯水のように沸いてくるわけでもないし、いいことにしましょう(と勝手に決めている)。それに話のネタが決まっても、ストーリーを組み立てて原稿を作る作業が残っています。これはこれで結構たいへんですけどね。
 
 それでは、光と音について考えましょう。光と音は似たような扱いのできる部分と、全く違った扱いをしなくてはならない部分があります(後半では、光を光子という粒子として考えています)。まず、同じように扱えるのは、光も音も波と考えたときです。波というのは、図1に書いてあるようなものです。
 
 
 通常、波を図1にあるように書きますが、これは模式的なものです。その場の扱いによって、色々と書き方を変えなくてはなりません。しかし、ここでは、波というものは図1にあるようなものだとしておきましょう。
 
 波には、波長という重要な概念があります。
 
 
 図2にあるようなのが波長です。これは、山から次の山までの長さと考えても、谷から次の谷までの長さと考えても差し支えありません。要するに同じものが繰り返して出てくるので、同じところが出てくるまでの長さです。よく、電波の波長がどうとかいう話を聞きますから、波長についての違和感は特にないでしょう。
 
 波長が短いと、山から山までの長さ、あるいは、谷から谷までの長さが短くなりますので、波がつまっているようになりますし、逆に、波長が長いと、波がまばらになります。
 
 
 図3にあるように、音ですと、波長が短いと、音を高く感じますし、波長が長いと、音を低く感じます。光ですと、波長が短いと、青っぽく感じますし、波長が長いと、赤っぽく感じます。この感じるというところがミソです。当然、脳が感じるということですので、感じ方には脳を介在させなければなりません。一応、「脳が感じる」ということを覚えておいてください。
 
 さて、波にはドップラー効果という現象があります。サイレンの音を聞いたときに、「あっ、救急車が近づいてくる」とか、逆に、「救急車が遠ざかっていく」ということを感じたことがあるでしょう。これはドップラー効果によってこのように感じるのです。
 
 
 図4を使ってこの現象を説明しましょう。図4の上の方の図は、救急車が止まっているときにサイレンを鳴らしている図です(止まっているときはサイレンを鳴らさないよ)。これは、最初の音が丁度耳に来て、最後の音がサイレンから出たばかりの状態と考えてください。下の図は、救急車が耳の方に近づいてきたときの図です。当然、最初の音は、丁度耳のところへ来ますし、最後の音は救急車のサイレンのところですね。途中の音は、耳とサイレンの途中にありますので、図にあるように波がつまってしまいます。すると、波がつまって波長が短くなるので、音は高くなります。
 
 
 図5は逆に救急車が遠ざかっている図です。この場合は、波がまばらになり、波長が長くなりますので、音が低くなります。このように、動いているものから来る波は、その動きによって波長が変化します。この現象をドップラー効果といいます。
 
 人間の脳は、ドップラー効果を利用して、耳で聞こえる音の変化から、物体が近づいてくるか、遠ざかっているかを判断しています。見事ですね。
 
 
 光も波ですから、光のドップラー効果というものがあります。原理は音と同じで、遠ざかっていると、色が赤くなり(赤方偏移)、近づいてくると青くなって(青方偏移)観測されます。ただ、光はあまりにも速く(真空中では、ほぼ秒速30万kmです)、日常生活で我々の動作は遅いので、普通はこの現象を感じられません。なお、音速はほぼ秒速340mです。ですから、宇宙規模になるとか、そういう人間の感覚から離れた場合でなくては、光のドップラー効果を観測しにくいですね。
 
 ところで、目と耳は全く違った構造をしていますね。目は飛び出ているけど耳は引っ込んでいます。光と音では取り扱いが全く違うのかな。と疑問をもたれていることと思います。この辺もおいおい考えていきましょう。
 
2.音の方向
 音に関しては、音が空気の圧力変化として伝わります(ほら、図1の波の書き方では都合悪いでしょ)。空気圧の変化(空気の振動となります)ですから、これは、膜を張って、その膜が圧力で押されているかどうかを感じるようにすれば、音を捉えることができます。なるほど、それで鼓膜があるのですね。
 
 まあ、ここまではいいのですが(本当か?)、よく、音のする位置は右耳と左耳で感じる時間差で捉えているという人がいます。この説明は間違ってはいませんが、なんかおかしくない(説明が不十分ということ)。ためしに時間差で位置を捉えているとすればどうなるかを考えてみましょう。
 
 時間差があると双曲線(「鏡の国の光子さん その二」に説明があります)が出てきて取り扱いが面倒になるので、「右耳と左耳に同時に音が到達した」として考えます。
 
 真正面からでも真後ろからでも同時に音が到達しますので、時間差では区別がつきません。平面上で考えるなら、図7のように、二つの耳の間の垂直二等分線上から来た音は全部同時です。
 
 
 空間で考えるともっと悲惨なことになります。
 
 
 図8にあるように、二つの耳の間にある垂直二等分平面の上のどこから来ても同時に感じてしまいます。これでは、獲物を取ることも、敵から逃げることもできないでしょう(どっちへ行けばいいのか解らないから)。
 
 では、耳が二つではだめなので、耳が三つあったらどうでしょうか。
 
 
 今度は、三つの耳の作る三角形の外心を通って、この三角形に垂直な線上から来た音は全て同時に聞こえてしまいます。まあ、さっきは、平面だったのが直線になったので、少しはましですが、やっぱり獲物を捕らえたり、敵から逃げるのには支障があります。
 
 じゃー、耳が四つだったらどうでしょうか。
 
 
 今度は、きっちり一点に決まります。場所は。四つの耳を頂点とした三角錐の外接球面の中心です。よかったですね。
 
 さて、これで何が解ったかを考えましょう。耳が四つあれば、ピアスやイヤリングの売り上げが2倍になりますね。って考えた人は誰ですか。そうじゃなくて、音を感じる時間差だけでは耳が四つ必要になってしまうけれども、現実には耳が二つです。このようなギャップが生じてしまいますので、単に右耳と左耳に聞こえてくる音の時間差だけで判断しているのではないということです。
 
 
 耳の構造は図11にあるような感じです。図をよく見てみると、耳介はともかくとして、外耳道と鼓膜から、管共鳴を利用した上で、鼓膜によって2次元的に音を感じているのではないかと考えられるでしょう(なんかいきなり難しい話に吹っ飛びましたね)。目の構造を思い浮かべてください。レンズによって光を増幅し、網膜に映した像(2次元)を捉えていますよね。そして、左右の目で、その像のずれから立体視をしています(実は、片眼立体視というものもありますが、今は考えないことにします)。耳でもこれと同じように管共鳴によって増幅し、鼓膜で空気の振動を2次元的に捉えていると考えれば、耳が二つで音の位置を捉えられると理解しやすいでしょう。つまり、光と音は物理現象が異なるので捉え方が違っていますが、それでも、基本的には同じ方法をとって捉えているということです。
 
 ここから先は自分で勉強してみてください。
 
3.光と音の感じ方
 ところで、脳はよくできた器官です。別に人間でなくてもいいのだけど、とりあえず人間としておきます。その素晴らしい処理系の一端を見るのがこの章の目的です。
 
 光は、真空中では、秒速30万kmですが、空気中では多少遅くなります。とはいえ、やっぱり秒速何十万kmですので、極めて高速です。一方で、音は、秒速340m程度ですから、光から見れば止まっているも同然ですね。でも、人間の動作よりは速いけど。
 
 
 会話するときは、相手の唇の動きに合わせて声が聞こえてきますね。これは不思議な現象です。図12のように、光が目に届いてから、遅れて声が耳に届きます。同時に来ているわけではないのに、なぜか唇の動きに合わせて声が聞こえます。ということから考えて、脳は、光と音を感じるずれを補正し、無理やり同期を取っているということです。物音でもなんでも、光と音の同期がとられて感じます。素晴らしい処理系ですが、逆に、これを利用して錯覚を起こさせることもできます。それら辺については自分で勉強してみるとよいでしょう。
 
 ところで、雷を見たことのない人はいないと思います。雷が、「ピカッ」と光って、しばらくしてから、「ごろごろ」と音が聞こえてきます。ということは、さすがに、あまりにも時間差があると脳は同期をとらないということです。自分の近くで起こった現象は同期を取り、遠くで起こったことは同期を取らないという意味はなんでしょうか。よく考えてみてください。
 
4.色の識別方法
 我々は、目で光を感じます。目の機能は色々あって、おおまかにいえば、「明暗を感じる」「像を感じる」(ものの形を感じる)「色を感じる」ということでしょう。
 
 
 いずれも奥が深くて難しいとこではありますが、感覚的に、「明暗を感じる」ということは光の強さに由来すると解るでしょう。また、「像を感じる」というのは、網膜上に映った像に反応しているところからの情報と考えられますので、これもまあまあ解りやすいと思います。
 
 それでは「色を感じる」というのはどうでしょうか。これが簡単そうで、意外と難しい問題です。まず、「色」は物質に固有の性質ではありませんし、光の波長に固有の性質でもありません。我々の脳が勝手に付けているものです。
 
 物質によって、固有の波長の光を反射したり、吸収したりします。従って、物質を識別する上では、光の波長を感じ取れた方が有利になります。そこで、光の波長に対して、我々の脳は識別のために色を付けているのです。
 
 では、どうやって光の波長を捉えているのでしょうか。よく光の三原色(RGB、R:赤G:緑B:青)という言葉を聞きますが、このR、G、Bを混ぜて作った色と、本来の光の波長は全くの別物です。ただ、我々の目では違いが区別できないというだけです。あなたが今見ているPCの画面は、RGBによって色が組み立てられていますが、例えば、ここで「黄色」と見える色と、本来の黄色に相当する光の波長とは全くの別物です。この辺のことは、この原稿を読み進んでいけば解ります(本当かな?)。
 
 それでとにかく光の波長を感じ取らなくてはなりませんが、それは錐体視細胞の役目です。この細胞の中にある視物質が主役です。ではどうやっているかという疑問が沸いてきますね。なお、ここから先は、光を波と考えたり、光子という粒子として考えたりします。
 
 視物質は、どの波長の光子をどれだけ吸収するかということが決まっています。
 
 
 図14は人間の目にある視物質での光子の吸収率曲線を描いたものです。nm(ナノメートル)という単位が出てきますが、これは10億分の1メートルです。人間の目にはそれぞれ、424nmのところで一番吸収されやすいもの、530nmのところで一番吸収されやすいもの、560nmのところで一番吸収されやすいものの三種類があります。グラフは縮尺も、それぞれの山の高さもいい加減ですが。
 
 吸収率というのは、例えば、ある波長の光子が10個来たときに、5個吸収されたとすると、吸収率1/2という具合に出します。それぞれの三種類の視物質にたいして、吸収率を描いた曲線が図14にある曲線です。これは、RGBの色には対応しておらず、少しずれた波長がピークになっています。
 
 ここから話が少し難しくなります。視物質を使って、どうやって波長を捉えるかということを考えましょう。
 
 実は、視物質は二種類あれば波長を識別できます。三種類あれば、より識別の精度が高くなります。人間の視物質は三種類ですが、他の動物(鳥類、爬虫類、両生類、魚類)や昆虫は視物質を四種類持っていて、人間など想像もつかないような極彩色の世界を見ています。しかも、紫外線領域まで見えています。いいなー、うらやましいなー。そもそも、哺乳類は夜行性だったため、視物質が退化していて、目がよくありません。人間が一番目がいいなんてのはとんでもない間違いです。
 
 
 それでは、二種類の視物質によって光の波長を捉える方法を考えてみましょう。図15を見てください。視物質Aと視物質Bの吸収率曲線が書かれています。そこで、例えば、青い線で書いたところの波長を持つ光が来たとします。このときに、視物質Aでは青い線と曲線の交わった部分に対応する割合の光子が吸収されます。しかし、図15を見れば解りますが、緑の線で書いた波長を持つ光子の吸収率と同じになります。従って、視物質Aでは、青い線の波長の光と、緑の線の波長の光とを区別できません。
 
 同様に、視物質Bでは、青い線の波長の光と、赤の線の波長の光とを区別できません。それでも、それぞれ視物質Aを含んだ錐体視細胞、視物質Bを含んだ錐体視細胞から脳へ、どれだけの光子を吸収したかの情報が送られます。脳では、この二種類の情報を比較して、共通部分である青の線の光の波長と認識します。
 
 このようにして、光の波長を認識し、脳で識別のために色を付けているのです。もちろん、視物質が二種類よりは三種類あった方が精度が上がります。そういった意味で、人間は哺乳類の中では比較的色に対して敏感な生き物といえるでしょう。他の哺乳類は二種類なものが多いようです(中には三種類のものもいますが)。
 
 これが解ってくると、今度は目をごまかす方法が考えられます。図15で視物質AとBに、青い線の光の波長の代わりに、二種類の波長の光をうまく調整して、青い線の光の波長のときの光子の吸収率と同じになるように照射します。すると目はだまされて、というより脳の処理系がだまされて、青い線の光の波長がきたと感じてしまいます。このようにして、視物質のピークではありませんが、RGBの組み合わせをうまく調節してフルカラーを作り出して我々の脳をだましているのが、あなたが今見ているこのモニターです。
 
 私の引いた線路はここまでです。光と音から、目と耳の話でしたが、まだまだ奥が深いので、ここから先は自分で勉強してみるとよいでしょう。
 
平成20年1月9日
坂田 明治(あきはる)
 
 

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