さらに広範囲の動物間に存在するウイルス

 アルボウイルスはカ、ダニ、ハエ等の吸血節足動物で媒介される日本脳炎、ロシア春夏脳炎、サシチョウバエ熱等の病原体で図3に示すような自然生態を営んでいます。
 つまりアルボウイルスは多数の脊椎動物種の体内で増殖できるばかりでなく、非脊椎動物である節足動物の体内でも活発に増殖できる能力を持っています。その結果ウイルスの自然生態は宿主の生態と密接に関連しているのです。日本脳炎ウイルスを例にとってその複雑な自然生態を調べて見ましょう。
 日本脳炎ウイルスが蚊によって伝播されることはよく知られているが媒介蚊は限定されていることはあまり知られていません。日本での主要媒介蚊は田園関連水路から発生するコガタアカイエカです。日本ではコガタアカイエカは春から夏にかけて発生し、盛夏にピークを向かえ秋が深まると姿を消します。コガタアカエイカ自身が本来ウイルスを持っているのではなく、感染ブタから吸血の際に取り込み感染すると考えられます。コガタアカイエカはウイルス血吸後2週間位でウイルスを感染させることができ、その蚊の生涯を通じてウイルスを排出し続けます。日本脳炎ウイルスの生態はしたがって、コガタアカイエカの発生状況、吸血生態、ブタの飼育状況と深く関わっています。表3に日本脳炎ウイルスの自然界での増減、つまりヒトの日本脳炎流行に関与する因子をまとめてあります。これを見ると日本脳炎ウイルスは一見ウイルスとは全く無関係に見える環境の変化によって大きく影響されることがわかります。
表 3 日本脳炎の流行要因の変化
要 因 変動事項/要因の変化 理由甲の変化
コダタアカイエカ 農薬散布媒介蚊発生減少、ときに増加
稲作の慣行の変化
(早稲田田植え、中干し等)媒介蚊発生減少
(陸稲から水稲へ)媒介蚊発生増大
低下、増大
低 下
増 大
ブ タ 多頭飼育化増幅拠点減少
騒音、汚水公害住宅地から移動
自然循環断裂
増 大
低 下
ヒ ト 予防接種の推進免疫の増強
低流行地からの移動感受性者の増加
低 下
増 大

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