◆ブドウ球菌毒素 [Staphylococcal toxins]

 ブドウ球菌は多種類の毒素を産生することが知られている。その内、おもな毒素は溶血毒素、白血球溶解毒素および腸管毒素である。溶血毒素にはタンパク質性で、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)の4種類があり、ヒト由来株はαとδ、動物由来株はαとβを産生する菌株が多い。α毒素は細胞溶解作用、皮膚壊死作用のほかに平滑筋麻痺作用があり、細胞膜のリン脂質に結合して膜を破壊する。β毒素はリン脂質分解酵素のホスホリパーゼ Cで、37℃では溶血がおこらず、これを4℃に冷却すると溶血がおきる、いわゆる温冷溶血(hot-cold hemolysis)をおこす毒素である。δ毒素もホスホリパーゼであるが、耐熱性で白血球も溶解し、多くの哺乳動物の赤血球を溶血させる。ロイコシジンとよばれるヒトとウサギの白血球のみを溶解するタンパク質性の毒素はSとFの2成分から成り、単独では作用しない。また、細菌性食中毒の原因となる腸管毒素は水溶性の毒素であるが、耐熱性(100℃,30分)であるから一般の調理では分解せず、タンパク質分解酵素にも抵抗するから消化管内でも安定である。この細菌による食中毒は食品内で増殖した細菌が産生する腸管毒素がヒトの口から入って、1-6時間後に激しい下痢や嘔吐をひきおこす。この腸管毒素はA,B,C,D,Eの4種の血清型が知られ、その内、AとB型腸管毒素はT細胞を活性化させることが発症に関係すると考えられている。ブドウ球菌はそのほかに熱傷様の皮膚炎の原因となる剥脱性毒素(exofoliative toxin)、発熱、発疹、多臓器不全、ショック症候などをおこす毒素性ショック症候群毒素-1(toxic shock syndrome toxin-1)も産生する。両毒素ともにタンパク質であるが、後者の毒素も腸管毒素と同様にT細胞を活性化させる。このようにT細胞を活性化させる物質をスーパー抗原という。
また、ブドウ球菌にはこれらの毒素のほかに血漿を凝固させるコアグラーゼ、フィブリンを析出させるクランピング因子、血清中のプラスミノーゲンを活性化させてプラスミンを生じさせるスタフィロキナーゼなど特有の酵素も知られている。

関連 細菌毒素
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関連 溶血毒素
関連 白血球溶解毒素
関連 腸管毒素
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関連 リン脂質分解酵素
関連 ロイコシジン
関連 細菌性食中毒
関連 タンパク質分解酵素
関連 T細胞
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